以前にも宗教観やライフスタイルなど、アメリカでのカルチャーショック体験をお伝えしてきましたが、今回は意外と知られていない、でも日本とは全然違って驚きが連続のアメリカのお葬式事情についてご紹介していきたいと思います!
パトカーが先導する長~い車の列・・・一体何!?
アメリカに住んでいると、パトカーや白バイが先導する何十台もの車の列に出くわすことがあります。小さな町だと赤信号がすべて点滅になっていることもしばしばで、この列に出遭ったら他の車は必ず停車。
最初は「一体何があったんだ?!」とビックリしますが、これ、実はお葬式なんです。
この長い長い列は教会でお別れをした後、ご遺体をのせて墓地へ向かう葬列なのです。日本人は霊柩車に出くわしても「アッ親指隠さなきゃ」くらいなものですが、アメリカ人は他人であっても故人に敬意を払い道を譲ります。
わたしはキリスト教のお葬式にしか参列したことがありませんが、日本のお葬式とは全然違う雰囲気に驚きました。
アメリカでも日本で言うお通夜のようなものがあり、葬儀の前日に教会でご遺体と対面して遺族と話したりします。これはViewingとかVisitationと呼ばれます。
日本では棺の顔の部分だけに小窓がついていることが多いですが、アメリカでは上半分の開く棺がメジャー。土葬が多いということもあり、遺体はエンバーミングという衛生保全がなされることが殆どです。
エンバーミングでは身体の表面を消毒し体液を薬品と入れ替えるので、感染症の危険性もなく、手を握ったり顔を触ったり、キスすることも可能です。傷跡や欠損部の修復、お化粧やドレスアップなど、すべてを請け負いまるで眠っているかのように綺麗にしてくれるエンバーマーの地位は高く、アメリカにはなくてはならない存在です。
衝撃の一言
葬儀は教会でのミサ形式が殆どで、牧師や神父の話を聞き、賛美歌を歌ったり意外に明るい雰囲気。いちばんビックリしたのは牧師が“Let’s celebrate”と言い出したこと。
れ、れっつせれぶれーと?!お葬式ですけど?!?しかも皆口々に「アーメン!!」とか言ってるし?!
キリスト教では死=神様の元へ帰るという意味で、信仰を持つ人は皆肉体から脱皮して天国で幸せに暮らすといわれているので、お葬式は一時的なお別れだけれどいつか神様の元でまた会えるので喜んで送り出そう!という明るいイメージなんですね。雑談もにこやかで笑い声もタブーではありません。
あのベールみたいなやつ、ないの?
次にビックリしたのは服装!海外といえばこういうベールなイメージ、ありませんか?ありますよね?
これつけてる人、近代のアメリカにはいないらしいです。日本でも皇族の方々だけがつけていらっしゃいますが、それくらいのレベルで普通にはいないらしい・・・。ちょっとショック。
アメリカできちんと喪服を着るのは遺族くらいで他の参列者は少しカッチリめの平服。衝撃だったのは普通に緑や青のワンピースとかジーパンで来ている人が結構いたこと。
子供は特に、礼拝用のワンピースやジャケットばかりで黒を着ている子のほうが少ないくらい。黒じゃなくていいの?と友人に聞いたところ、「だって子供は黒の服とか持ってなくない?服なんてどうでもいいよ」とのこと。
日本では全員が喪服着用、エナメルはダメとか革製品はダメとかピンヒールはダメとか色々な決まりがありますから、いくら平服とはいえ黒で揃えたほうがいいのかと思いきや、意外にも黒ずくめは逆に浮きます。
グレーや紺や茶色のトップスに黒のパンツやスカート、モノトーンのドットやチェック、花柄のワンピース、あたりが一般的なイメージでした。
「喪服とかってないの?日本では誰か死ぬとまず喪服の用意だよ」と食い下がるわたしに友人はちょっと呆れ顔で「誰か死んだときにまず服の心配なの?なんかヘ~ン」と言い放ちました。
た、確かに・・・!この体験はとてもショッキングで、我々は形式にとらわれて大切なものを見失ッテ・・・等々当時は色々と考え込みました(笑)
アメリカ埋葬事情
土葬の場合、ミサが終わると冒頭でご紹介した葬列で墓地へ向かいます。葬列がこんなに長くなってしまうのは、誰でも埋葬に立ち会えるから。日本では火葬は近親者のみの場合が多いですね。
夫婦のどちらかが亡くなると、かなり深めに穴を掘って埋め、もう一人が亡くなったらその上に埋葬することも多いそうです。お墓も夫婦一緒なんて、なんだか素敵ですよね。
アメリカでも近年は火葬が増えていて、これは宗教観の変化に伴うものなのかと思いきや、どうやらそうではなく経済的な事情のようです。
お墓を買って維持するのもお金がかかるし、家族に面倒かけるし・・・などの理由で火葬を選択して、お骨は家に置いておくことも増えてきたとか。オシャレな骨壷だと意外にインテリアに馴染んでいい感じ!
散骨は土葬の次に人気で、日本のように厳しくないので割とどこにでも撒けるらしく、その辺の海や川とか家のお庭なんかに平気で撒きます。
アメリカでは散骨自体が元から、「堅苦しいのはナシで、散骨でいいよ!」というようなイメージなので、scattering ashes(灰を撒く)というそのまんまのネーミングで、すごくカジュアルに撒いている人が多いです。
お香典は要りません
お香典制度はないので、お葬式の報せをうけたら普通は教会へ直接お花を贈ります。このお花も白とか菊とかの決まりはなく、アレンジメントやリースが基本でどんな色でもOK。
“funeral flower wreath”なんて画像検索すると、結婚式か!?と思うほど色とりどりで綺麗なものばかりです。
ただ、Memorial Contributionといって寄付をお願いする場合もあります。おしらせに「お花のかわりにこの団体へ寄付をお願いします」「故人を偲んで教会へ寄付をお願いします」などと書いてあることがありますので要注意!
アメリカには一周忌など節目のイベントもなく、好きなときにお墓を訪れるだけ。土葬だとお墓のまわりにお花を植えられるので、すぐ枯れてしまう切り花よりいいなぁと思います。
休日に故人と語りあいながらお墓でガーデニングしている方もちらほら。
上ではごくごく一般的なアメリカのお葬式事情をご紹介しましたが、故人が軍人や退役軍人だと軍の形式を大切にするお葬式になることが多いです。
その場合国旗を掲げたり、服装がもう少しフォーマルだったり、花の色が白のみだったり、度合いにもよりますがちょっと決まりがあります。
もしアメリカのお葬式に参列する機会があれば、宗派や軍式なのかどうかを事前にきちんと確認!そしてアメリカ滞在中に長~い車の列に出遭ったら、以下のポイントをチェックしましょう。
- 全ての車がヘッドライトを点けている
- ものすご~くノロノロ運転
- 先頭の車には点滅する黄色いランプがついている
- 最後の車はハザードを点けっぱなしで運転している
この条件を満たしていたら間違いなく”Procession”、葬列ですので、こちらが青信号でもどうぞ停車して道を譲ってあげてください。間違っても横切ったり割り込んだりしないようにお気をつけくださいね。
様式は違えど、故人を悼む気持ちは世界共通。
細かいマナーよりも故人への気持ちを優先するアメリカンスタイルに、学ぶことも多いのではないでしょうか?
年を重ねるごとにお葬式の場に出ることも増えますが、どこの世界でもどんな宗派でも、故人に感謝の念を贈り見送っていると考えると戸惑うことも少ないのかもしれません。
式辞などはなかなか考える機会もありませんが、普段から改めて心持ちを作っておけば、いざという時に後悔のないお見送りができるのではないかと思います。